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「雲が流れたようですね」
小田が森の上の空を指した。
その森の奥へ徳永は慌てて駆け出した。
「あいつ…何かしてるな…」
土方は呆れた顔を小田に向けた。
「若者だからしょうがないですよね」
「俺を枯れた爺さんみたいに言うなっ!」
小田の肩を叩くと土方も徳永の後を追った。
小田は大場を連れてゆっくりと歩き出した。
「利さん……利さん!」
徳永は土井を見つけて名前を叫んだ。
「うるせぇよっ!」
土井は恥ずかしさのあまり駆けてくる徳永を怒鳴った。
その時、長丸と手を繋ぎながら土井は山道に立っていた。
徳永は鞄を放って土井に抱き付いた。
「二度と会えないかと思っちゃいましたよ……」
徳永の土井を抱きしめる腕の力が強くなった。
「良かった……」
「離れろ……」
土井は徳永の背広の襟を引っ張り上げた。
そこへ、黒尽くめ土方が足を止めた。
とっさに土井は長丸を後ろに隠した。
土方はその光景を見て吹き出す。
土井は徳永に抱き付かれ、右手で背広を引っ張り上げ、左手で長丸を後ろに隠していた。
「器用だね。土井くんは…」
「あんた……誰?」
土井は土方を睨んだ。
「覚えてなきゃいいや。公安局の土方です」
「………?」
土井は脳裏に黒コートの男が浮かんだ。
「あん時の……キザなおっさん…」
「おっさんが余計だ」
「今回、あんたが何の関係があるの?」
そこへ、小田と大場が辿り着いた。
土井は小田をじっと見て驚いた。
「あんたもあん時の親父……?」
「殿だ」
小田はにこりと笑った。
土井はワケが分からなく呆然と二人の顔を見ていた。
その時、長丸が土井の手を離して、後ろに控えていた老婆に抱き付いた。
「大場……迎えに来たのか?」
「はい、長丸坊ちゃま」
大場は皺の入った手で優しく長丸の頭を撫でた。
「これで解決」
土方がニヤリと笑った。
「まさか……長丸が時空を超えて……」
土井は慌てて土方を見た。
「流石に3回目になると飲み込みが早いな」
土方が感心してそう言った。
小田は投げ出された鞄を拾って徳永へ手渡すとこっそり囁いた。
「あなたの事は無しにします。私達は見なかったことに……」
小田が軽くウィンクを徳永に送った。
土井は変な顔で小田を見た。
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