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静かに意識が覚醒して行く。
薄く目を開けると黒色の天井が目に入った。
徳永は首を縦にすると車のフロントガラスが見えた。
今、自分が車内にいる事が分る。
隣りを見ると土井が眠っていた。
徳永は辺りを見渡して、今どこに居るのか分かった。
そうか……駿府公園の近くの駐車場だ……
彼らにここの場所まで戻された。
久能山東照宮は無かった事にされた。
あの時、公安の土方から記憶を消すと言われたが、徳永は何が起きたかはっきりと覚えている。
「土井。今までありがとう。楽しかったぞ」
長丸はにこりと笑って土井の手を軽く触った。
土井は長丸が持っていた手紙を大場に見せた。
「これは私くしが書いた物にございます」
大場が深々と土井に頭を下げた。
「長丸様を預かって頂くにはこれしかないと思いまして、土井様に託したのでございます」
「見事に託されましたけど……誘拐犯にならなくて良かった」
土井はケラケラと笑った。
「長丸。二度と会うこともないが、寂しくなったら会いに来てもいいぜ」
土井は長丸に目線を合わせて言った。
「そいつが居るからいいは…」
長丸は徳永を指した。
土井は振り向いて徳永を見た。
「本当に嫌われているね」
徳永はそうではない事を分かっていた。
分身同士、どこかで繋がっているのだろうと徳永は思った。
「こちらの事件はこちらで処理します。また、君達の記憶を無くさせてもらうよ」
公安の土方が二人を見た。
「長丸くんだけの記憶がなくなる」
土方は土井の肩を叩いた。
「悪いな……」
「やつのことなら大丈夫です。大分吹っ切れたし……」
土方は目を見開いた。
「まさか……会ったのか?」
土井は軽く目を閉じて言った。
「さあ…?」
「まあ、いい」
土方は土井の頭を軽く撫でた。
「では、ここでお別れだ」
「もう、会いたくないです。あなたたちとは…」
土方がふっと笑うと土井と徳永の意識が遠退いていった。
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