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おまけ
6月の第一日曜日、朝から晴天である。
玄関の呼び鈴がリビングのインターホンから流れた。
徳永はソファから立ち上がりモニターを覗くと彼の顔が映し出されていた。
「今、開けますね」
オートロックの番号を押して、マンション玄関先の扉が開いた。
モニターから人影が消えた。
暫くして玄関のチャイムが鳴った。
徳永は直ぐに扉を開ける。
「お邪魔します」
両脇に荷物を抱えて彼は立っていた。
少しくせのある髪は短めに切り揃えてある。僕より少し背の低い痩せた彼はいつもの上目遣いに丸い目をこちらに向けてくる。
Tシャツにジーンズを着て、相変わらず高校生のようで笑ってしまう。
そして、彼は必ずこう言う。
「キモイですけど…」
それで、徳永はまた笑う。
「すみません、厄介になります」
土井利彦は頭を下げた。
東京の本社勤務になった土井はあれからアパートを見つけられずに徳永の高級マンションへ居候する事になった。
「他の荷物は届いてます。部屋に入れておきました」
「悪っ、ありがとう」
「素直だと気持ち悪いですね」
土井の顔がムッとした。
「ひと月だけだよ。住むところが見つかれば出て行くし…」
徳永はその顔が面白くて笑ってしまう。
土井と顔を合わせないように荷物を取った。
「上がって下さい」
徳永はリビングに入る手前の廊下のドアを開けた。
「狭いですけど、荷物置きにはちょうどいいでしょ?」
「…ん?荷物置き?」
土井は眉間にシワを寄せた。
「だって、リビングもベッドルームもありますから…」
「ベッドルームって、まだ俺用のがあるのか?」
「一緒ですよ」
「へっ?」
土井の顔が更にムッとする。
「俺はここで寝る。布団を荷物と一緒に送ったけど…」
上目遣いで睨んできた。
「あれは、古そうだったので捨てました」
サラッとそう言い放った徳永は土井に首を絞められた。
「お前はアホかっ!変態っ!もっと地球に優しくなれっ!」
徳永は近づいた土井の腰に手を回し引き寄せた。
「僕は利さんに優しいです」
土井は首を絞めていた手で徳永の口を塞いだ。
「お前、これ以上近づいたら警察に訴えてやる」
土井に何故か掛けていたメガネを取られた。
「これなら見えないだろう」
「利さんなら見えますよ」
徳永はニヤリと笑った。
この掛け合いが堪らなく面白い……
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