おまけ

2/9
前へ
/67ページ
次へ
徳永は土井の頬へ軽くキスをして、思い切り抱きしめた。 そのまま、耳元で囁く。 「メガネを返して下さい」 土井の右手からメガネを奪い返した。 「これで利さんの唇がよく見えますね」 土井は口をぎゅっときつく結んだ。 身体の間に手を入れて土井は徳永を押し返した。 徳永は何の抵抗も無しにすんなりと身体を離した。 土井はドアノブを掴むと部屋に入りカギをかけた。 「独りで片付けられますか?」 「………」 土井の返事は無く、暫く黙って好きにさせた。 土井利彦が自分のマンションへ引越ししてくれた。 それだけで徳永は嬉しくて、数日前からドキドキして足元が浮かれていた。 しかし、土井は限定ひと月の居候と電話でそう告げてきた。 徳永としてはいつまでいても構わなかった。 土井と二人きりで生活がしてみたかったのだ。 土井は立派な男が人の世話になるなんて言語道断と言って、古臭い爺さんみたいな考えを徳永に披露した。 変な気遣い屋なのである。 徳永はそんな土井を見ていつも笑っていた。 暫くして、リビングのインターホンが鳴った。 徳永が画面を覗くと宅配便のお兄さんが挨拶をした。 「そちらに土井利彦様はいらっしゃいますか?」 「はい、おりますが…」 「お荷物お持ちいたしました」 「本人に変わるのでお待ち下さい」 徳永は彼が籠もっている部屋のドアをノックした。 「利 さん、宅配便を頼みましたか?マンションの下に宅配のお兄さんが来てますよ」 カチャリと部屋のドアが開いて、土井が顔だけを出した。 「どこ…」 「怒ってないで出て来て下さい。リビングです」 土井は部屋から出てリビングへ向かった。 徳永はインターホンを土井に覗かせて訊いた。 「開けても大丈夫ですか?」 「ちわっす。土井先輩。お荷物をお届けに来ました」 「佐々木じゃん!」 「名前が先輩のだったのでビックリっすよ。すげーマンションに居ますね」 「あ……いゃ…居候です」 土井は照れながら髪を掻いた。 「ああ……部屋に行っても大丈夫ですか?」 「OK!今開けるぜ」 土井は徳永の顔を見た。 えへへへっと軽く笑った。 徳永はその顔に少しイラついた。 何が嬉しいのか…… 仕方なく暗証番号を押した。 「今、行きます」 その佐々木と言う男の姿が消えた。
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加