おまけ

8/9
前へ
/67ページ
次へ
背中に回した指先を彼のジーンズのボタンに掛けた。 彼の吐息が僕の耳にかかる。 背中がぞくりとした。 僕の指先がファスナーを下ろし、そのまま進もうとした。 その時、インターホンが静かに熱の隠った部屋に鳴り響いた。 「…………」 土井の顔が少し歪んだ。 「すみません、徳永さん。管理人です」 もう一度呼び出し音が鳴った。 「…………!」 徳永はその音を無視して先へ進もうとする。 「すみません、管理人です」 土井が徳永の腕を掴んだ。 「……いいから、出ろ…」 土井に身体を押し返された。 徳永はムッとしながらメガネをかけてインターホンの前に立った。 「何ですか?」 徳永の声は怒りに満ちていた。 「昼間ですが、宅配便を預かっていました」 何故…今……? 徳永が後ろを振り向くと土井はソファに寝ていた。 「今、開けます」 徳永はムカムカしながら玄関に向かい、ドアを開けた。 いつもは愛嬌のあるおじさんと思えるが、今日は最悪のじじいに見える。 「わざわざすみません」 徳永の愛想笑いの顔がひきつる。 「新しい彼女が来たの?」 管理人が笑う。 「………」 分かってるなら……来るな…… 「これで徳永さんのお母様もお喜びでしょう。かなり心配していたご様子だったので……」 「はあ…?」 今……それを言うか? どうでもいいだろう…じじい…… 「では、これで」 「どうも……」 徳永は愛想笑いで荷物を受け取ると急いでドアを閉めた。 「誰だよ。まったく!」 徳永は不手腐れながら荷物の差出人の名前を確認した。 …土井孝子……? ………誰……? 徳永はリビングに戻ると土井はソファに凭れて、何も無かったように新しいビールを飲んでいた。 「利さん…土井孝子さんって…知ってますか?」 「えっ!」 土井は驚いて缶ビールを吹きたしそうになった。 そして、慌てて立ち上がった。 土井は徳永の抱えている荷物の差出人を見た。 「げっ!母さん!」 土井の顔から目が落ちそうなくらい驚いた。 「沖縄からですよ」 「一応、連絡をしたから……」 土井は身震いをした。
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加