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背中に回した指先を彼のジーンズのボタンに掛けた。
彼の吐息が僕の耳にかかる。
背中がぞくりとした。
僕の指先がファスナーを下ろし、そのまま進もうとした。
その時、インターホンが静かに熱の隠った部屋に鳴り響いた。
「…………」
土井の顔が少し歪んだ。
「すみません、徳永さん。管理人です」
もう一度呼び出し音が鳴った。
「…………!」
徳永はその音を無視して先へ進もうとする。
「すみません、管理人です」
土井が徳永の腕を掴んだ。
「……いいから、出ろ…」
土井に身体を押し返された。
徳永はムッとしながらメガネをかけてインターホンの前に立った。
「何ですか?」
徳永の声は怒りに満ちていた。
「昼間ですが、宅配便を預かっていました」
何故…今……?
徳永が後ろを振り向くと土井はソファに寝ていた。
「今、開けます」
徳永はムカムカしながら玄関に向かい、ドアを開けた。
いつもは愛嬌のあるおじさんと思えるが、今日は最悪のじじいに見える。
「わざわざすみません」
徳永の愛想笑いの顔がひきつる。
「新しい彼女が来たの?」
管理人が笑う。
「………」
分かってるなら……来るな……
「これで徳永さんのお母様もお喜びでしょう。かなり心配していたご様子だったので……」
「はあ…?」
今……それを言うか?
どうでもいいだろう…じじい……
「では、これで」
「どうも……」
徳永は愛想笑いで荷物を受け取ると急いでドアを閉めた。
「誰だよ。まったく!」
徳永は不手腐れながら荷物の差出人の名前を確認した。
…土井孝子……?
………誰……?
徳永はリビングに戻ると土井はソファに凭れて、何も無かったように新しいビールを飲んでいた。
「利さん…土井孝子さんって…知ってますか?」
「えっ!」
土井は驚いて缶ビールを吹きたしそうになった。
そして、慌てて立ち上がった。
土井は徳永の抱えている荷物の差出人を見た。
「げっ!母さん!」
土井の顔から目が落ちそうなくらい驚いた。
「沖縄からですよ」
「一応、連絡をしたから……」
土井は身震いをした。
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