偶然

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「僕、お名前は?」 「土井って人に会いに……来た…」 男の子が呟いた。 「えっ?何言ってんだよ。こいつ」 「あなたの名前は?」 お巡りさんと少し睨みあった。 「……土井…利彦ですけど…」 「親戚のお子さんじゃないんですか?」 「俺は兄弟もいないし、従兄弟もどこに住んでいるか知らないし……」 「ご親戚に連絡を取られたら如何ですか?」 お巡りさんはしゃがみ込み男の子に質問を投げた。 「このお兄さんに会いに来たのかな?」 男の子はコクリと頷いた。 「お引き取り下さい」 土井は交番から男の子と一緒に追い出された。 「誰だ。お前は?」 交番から出て土井は訊ねた。 「長丸…」 何だか爺くさい名前たな。 「苗字は?」 男の子は黙り込んだ。 「何歳?」 「七つだ」 その男の子は、白色半袖のTシャツにジーンズの半ズボンと浅葱色のパーカーを着ていた。 「どこから来た…」 「……?」 名前と年齢しか分からないらしい。 そんな子供を俺は預かってもいいのか? 土井は途方に暮れてしまった。 その時、長丸はポケットから一枚の紙を出した。 『土井利彦に会いに行きなさい』 たった一行だけ細筆で書かれた紙を土井に見せた。 「いたずらが……」 その文書の余りにも達筆な事に驚いた。 ……こいつは本当に誰なんだ? 土井は長丸をじっと見た。 そして、自分の昔の行いを思い返した。 付き合った女性の事を考えたが、いくら頑張っても7歳の子供はいない。 土井は仕方なく長丸の手を引いてアパートへ連れて帰った。
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