偶然

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土井はアパートに着くと実家に電話を入れた。 「母さん、訊きたいことがあるんだけど。親戚に7歳の男の子を持ってるひとはいる?」 『いきなり何?』 「俺のアパートへ子供が会いに来た」 『ええっ!あんたそんな隠し子がいたの?』 母親は驚いた声をあげた。 「違うよ!そんな隠し子がいたら18の時の子供じゃないか」 『いや、分からないわよ。良く考えて…』 「考えてって……やってないものは生まれないでしょっ!」 『親になんて事をいってるの…まったく』 訊いたのはそっちだろう…… 土井は母の言葉に呆れた。 『従兄弟の子で……それくらいの子供はいる?長丸って言ってるんだけど……」 『静岡の朋ちゃんならそのくらいの子供はいそうね……名前は分からないけど…』 「電話番号は知ってる?」 『知らないけど……調べたら連絡するよ。じゃぁね、これから母さんお出かけなのよ』 そう言うと母親は電話を切った。 土井はスマホ片手に深い溜息を吐いた。 これだと、数日長丸を本気で預かる事になりそうだ。 「学校はどうするんだ?長丸?」 長丸はきょとんとしてベッドに座っていた。 土井はベッド脇の時計を見て慌てた。 既に午後6時を回っていた。 「長丸、腹は空いたか?」 長丸はコクリと頷いた。 土井は気付いた。 カップラーメンしか買 い置きがなかった。 育ち盛りの子供にカップラーメンは可哀想だが仕方ない。 無い物は、無い。 土井はカップラーメンにお湯を注ぎ、長丸の前に出した。 「3分待てよ」 「何だ?これは?」 長丸は不思議そうにカップラーメンを覗いていた。 ……従兄弟の朋ちゃんの家は金持ちなのか? この歳になればカップラーメンくらい分かるだろう…… 家出息子を助けた事で金一封が貰えたりして、と土井は下世話な考えが浮かんだ。 「いいぞ、食べて」 土井はカップラーメンの蓋を取り、味噌汁椀に少しずつ麺を入れた。 長丸は熱いと顔で語っていた。 土井はフウフウと言いながらお椀の麺を冷ました。 その時、アパートの呼び鈴が鳴った。 こんな日に客である。 「どちら様ですか?」 「僕……です……利さんが気になっちゃって…」 玄関先の暢気な声は徳永だった。 「…何しに来た?」 土井はチェーンを掛けたままドアを少しだけ開けた。
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