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忌々しい思いだった。
あともう少しだったのに、あともう少しで己に課せられた任務は遂行できたのに、あともう少しで揺るぎない地位を確立できたとにと思うと、昨日の出来事は彼にとっては忌々しくてがりりと爪を噛み砕いた。
しかしどんなに昨日を呪っても過ぎた過去は戻ってこないしやり直しもきかないのだからと、眉間に深い皺を刻ませた彼は溜め息一つ吐き、頭を振る。
「何故あんな辺ぴな場所に竜なんかがいるんだっ」
ああ、駄目だ。
忌々しい思いを簡単に捨てれそうにない。
任務完遂に向けて邪魔に入った強大な存在を憎々しげに吐き捨てた彼の脳裏に浮かぶのは、緑色の鱗を持つ一匹の竜。
巨躯を誇りながらも気配を感じさせず突如として背後に現れるなり、己が任せられ率いた部隊を一瞬とも呼べる時間で蹴散らし潰してしまった。
そうして生き残ったのは己を含んだたった四名だけで、他の三名は負傷している。
なんと申し開きをすればいいのだかと保身の考えを不安がりながら天井を仰ぎ見るが、ああそうだと思い出した。
己の手の内には一筋の言い逃れがあったのだ、と。
「首を献上できないのは惜しまれるが、致し方ないか」
最初は首を眼前に差し出すつもりだった。
その気でいて、そうするだけの追い詰めだってできていた。
唯一つの誤算が邪魔に入っていは首に剣を突き立てることは結局叶わなかったが、それでも確かな証を代わりに手に入れていたのだ。
後は己の保身の為に生き残った部下をどうにかすればいいと、彼の口元には不気味な笑みが弧を描き、彼の物の靴先がかつりと石の床を叩け蹴った音が響く。
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