プロローグ

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知識を得る為には必要不可欠な場所だが、この建物には確か二つあったと思い出し、忘れ去られようとしている方は端の塔に在った筈だと思い出しては、疲労を感じて休息を求めている体に鞭を打った。 知識を求める者が、または知識を残す者が訪れてはなかなか人の集まりを見せる図書室には先程訪れたが、あの子は知識を求めるわけでも知識を残すわけでもないからあまり訪れようとはしない。 それに、あの子がもう一つの図書室の存在を知っているとは限らない。 けれどもどうしてかもしかしたらという思いが泡のように浮き上がってきては、ぱんと弾けて足を動かせる。 まるで呼ばれたように。 まるで背中を押されたかのように。 広い敷地内の端にひっそりと建てられた蔦が這っている塔の前に辿り着き、普段は錠のかけられている鉄の扉にゆっくりと手のひらを重ねて押せば、錆びた音を甲高くたてて扉はゆっくりと開いた。 ああ、やっぱりここに来ているのか。 開いた扉に安堵からの息を一つ吐くと、久しぶりに太陽の光を吸ったかのような照らされた闇が漂う中に足を踏み入れて、むわりとした湿気とかび臭い臭いに咽返りそうになりながらも、かつんと靴の踵で石の床を踏み叩いた。 音は木霊し、まるで他の国に誘うような吸い込んでしまいそうな、そんな纏わりついてくる闇に怖気づきそうになるが、あの子がこの先にいるかもしれない。 その思いが足を動かして、出入り口の扉から差し込んでくる太陽の光だけでは心許無いからと、片方の手をひんやりと冷たい壁に当てながら、螺旋を形造る階段を慎重に上って行った。 螺旋の階段の先、塔の高い位置にあったのは、乾いた木製の扉で。 微かに開いたままの扉を静かに押し開ければ、広く高い空間が待ち構えていた。  
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