髪を献上した将

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「カワード」 身が竦む声だと、聞く度に思う。 カワードと名前を呼ばれた将である彼の向かった先は天井が高く幾つもの柱がその天井を支える広い空間で、入口の扉から広間の中心を走るのは真っ赤な絨毯で。 細長い絨毯の先には数段の段差があり、その段差の上に備えられている選ばれた者しか座ることを許されていない神々しくも尊厳に満ち染まった王座があり、そこに長い足を優雅に組んでは肘置きに肘を付き頬杖をし、白いマントの裾を床に垂らしている姿があった。 彫刻品かと見間違う程に整った顔立ちをしている美しいその男だが、闇を秘めた双眸は底が見えず見る者に萎縮を与え、くすんだ金色の髪はどこか凶暴さを醸し出す。 「私がお前に与えた一団。それが壊滅したと聞いた。どういう訳だい? まさか任務を失敗させた、なんて、残念な報告しないよね?」 「ま、まさかっ。任務は遂行しましたっ。し、しかし……突然の襲来に団は壊滅しただけです」 「襲来? まさかあれの味方が徒党を組んでいたとか?」 それだったらどんなによかったか。 己が追った彼女の首を落とす為の邪魔に入ったのが人相手だったならば、団は壊滅どころかむしろ撃退してここに跪いている筈だ。 後味だってよかっただろうというのに、顔を俯かせたカワードの顔は苦虫を噛み潰したようになっていて、しばし口を開くのを躊躇った。 王座に座る男は底冷えのする双眸でカワードを静かに見下ろしていれば、意を決したカワードは顔を上げ、若干唇を震わせながら口にする。 「竜です」 予想もしなかった存在を。 圧倒的な力を誇る存在を。 「竜が突如現れ、団は壊滅しました。しかし!」 カワードは手にしていた布包みを絨毯の上で広げると、中に包まれていたものを男に見せる。 無残に切った後も尚、窓から差し込む太陽の光を反射してきらきらと輝く銀色の髪の房を。
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