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本当はきっとこうなっただろうという予想の範疇でしかなく、あれが食われたのかを確かに見たわけでもない。
けれども己の保身と地位確立の為に口にだした事はどんなに手回ししても真実にしなければならないと考えたカワードは、この広間を出た足でそのまま生き残った者達の所に行かねばと思考を張り巡らし。
曖昧な嘘を完全な真実にしなければと、密かに決めた。
「さて、これで狼狽える民草を落ち着かせれては、怒りの矛先をあちらに向けれるね」
しかしと、言葉を区切った男の長い指先は顎に添えられて、視線は一房の銀の髪にと落ちる。
「懸念が一つ、ある。あれの騎士はどこに行ったのかい?」
「そ、れは……」
男が“あれ”と称する存在にはいつも添うようにして佇む騎士の姿があったのを脳裏に思い出す。
忘れてたわけではないが、あれを追い仕留めることに意識は向って、突然の竜乱入にすっかり騎士の事を頭の隅に追いやってしまっていた。
思い出したカワードは、騎士の姿はどこにあったのかを思い出そうとするが、あれの傍には確かに居なかった。
「騎士は側にはおりませんでした。もうどうしようもないと考え、生き延びる為にあれを見捨てたのではないでしょうか? あの騎士が忠誠を知っているとは思えませんし」
「確かにそうだね。騎士と呼ぶにはあまりに品が無かったからね。だけど、万が一を起してはならないから、探し出して消しておいて」
言葉は柔和を感じさせるが、しかし声には断る返事を許さない威圧感が裏に隠されており、カワードは承知と短く答えるでしかできなかった。
まぁもとより断るつもりなど無いのだが、誰かを探し出すのは得意な方ではないのだ。
できるならばその任は他の者に任せてもらいたいものだがしかしながらそうはいかず、カワードは立ち上がるとまずは生き残った兵士達が治療を受けているであろう医療室にと足を向けたのだった。
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