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人の生というものは、生きるということを痛感しない限りは生きていることにありがたみを感じにくいのだろう。
だから、死に直面してしまった年若い兵士は、目の前で仲間を失うという喪失感を味わいつつも、己だけは確かに生きているということが嬉しくて涙が溢れていて。
腕一本など、安い代償だった。
カワードは兵士の髪を撫でるように梳いてやると、兵士をひとしきり泣かしてやった。
「安心しろ。我々の任務は遂行された。犠牲が出てしまったとはいえ、確かに任務はこなしたのだ」
ぴたりと止まった兵士の涙。
何を言われたのかを確認する為にゆっくりとカワードの方に目を向ければ、カワードはどこか影を落とした双眸で己を見下ろしていて、でもどうして表情は明るくないのかと疑問が沸くよりも先に、任務は無事こなせたのだという安堵の方が強かった。
若さゆえに、経験不足なのだろう。
「よ、かった……」
カワードが何を考えているかなんて探す選択さえ思いもつかず、ただただ安堵の言葉を吐く。
くしゃりと歪めた顔見やったカワードは、兵士の頭を軽く数度叩いて労うと、次の兵士が横になっているベッドに向かった。
「これは酷いな」
ベッドに横たわっていたのは一人の兵士。
しかし言葉を交わせる状態ではないのを、兵士の姿が表していた。
兵士の体は溢れ出す血を止める為に隙間なく包帯を巻かれていて、顔さえも隠している包帯の合間からは、息をさせる為の管が幾つも伸びている。
命だけは助かったが肉体は死んでいるような様にカワードは顔を顰めると首を振り、残りの兵士の方にと足を向ける。
あれでは何を言ってもきっと無駄だろう、と。
そして生き残った最後の兵士は二人とは違って上半身を起こしており、精悍な顔をカワードに向けて待ち構えていた。
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