髪を献上した将

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短く刈り上げられた髪に、意志の強そうな双眸に、包帯を半分ほど巻かれた屈強な体つき。 ああ、生き残ったのはこいつだったのかと、カワードは内心舌打ちしたい気分になっていた。 しかし今更踵を返すわけにもいかず、内心を表に少しでも表して悟られまいと平静を装うと、椅子を引き寄せてはそこに座って兵士の体の具合をまず尋ねる。 「貴方のように五体満足とまではいきませんが、散ってしまった仲間の為にも命あるだけありがたいものです」 返ってきたのは皮肉で、益々この男は苦手だと、苦手意識を植え付けられてしまった。 言葉にはありありとしてこないが、暗に言っているのだ。 お前が五体満足なのはどうしてだ、と。 仲間意識が己よりも遥かに強く、ここにいる二人の兵士を連れ帰ったのも目の前の兵士が必死に担いでは連れ帰ったのはそこからで。 助けてと声を喉が裂けんばかりに求めた声に己が応えなかったのを生き残ったが為に知っているのだろう。 声に振り向かず悲鳴を聞かないふりをして、ただ己だけが生き延びる為に逃げたのを。 竜はどうしてこの兵士を仕留めそこなったのだと捨て吐きたくなるのをぐっと堪えて、カワードは己の内情を気付かれないようにと目に力を込めると兵士を見据えた。 「あれがもう生きていないのを陛下に伝える者がどうしても必要だったのだ。俺が生き延びてその証拠を差し出さなければ、国は発展しないだろう?」 「自分が生き延びる為に仲間を見殺しにした、と?」 ストレートに返してきたなと、カワードの目元が引きつってしまう。 カワードに反して兵士は静かで冷静で、カワードの真意を見据える為に探るような目をしていた。 「部下達も国の為なら本望だっただろう。国の為に兵はあるのだから」 「助けを求めた仲間達がそれが本望だと疑わずにお思いですか? それが、兵士の上に立つもののお言葉ですか?」 ああ、冷静さの仮面はからりと欠けてしまったようだ。 仮面の下から覗いたのは怒り猛った感情で、兵士の目はカワードを射抜かんばかりの強さを隠しもせずに込めてきたではないか。
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