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「貴方様が背中を見せなかったら、助かった命もあったでしょう。一団の上に立つということは、団の形を作っている命を背負うと同義。己の命を優先するあまりに見捨てるなどっ」
「相手は竜だぞ。対竜兵器があれば別だが、あの時の我々は丸腰のようなものだ。団を再び立ち上げる者が生き残るべきだ。大事な報せを献上できる者が生き残るべきだ。俺はあの時、大事な選択を迫られて最良な方を選んだに過ぎない」
「兵としてはいい模範解答なのでしょう。それは。しかし、兵も一人の人間です。家族や友がいるのですよっ。それらが背負う悲しみと比べたら報せなど、比べるに足らないでしょう!!」
「国が関わっている。国をどうこうするかには悲しみは付き物だ」
「貴方という人はっ」
体に障りますと、激昂を露わにした兵士を止める者が現れなければ、兵士はカワードに掴みかかっていただろう。
精悍な顔つきは仲間を思うが為に激しい怒りから歪んでしまっており、それに対して飄々を答えられたカワードの応えは気に食わないのが丸分かりだ。
肩を抑えられて体をベッドに横たえられた兵士はカワードを激しく睨みつけていたが、それに対してカワードは溜め息を一つ小さく吐きながら肩を竦めると、本当に厄介な奴が生き残ってしまったものだと、胸中で吐き捨てた。
兵士の言っている事はただの理想像にしか過ぎない。
兵士として鍛錬を積むにあたって学ぶ教えに、上に立つ者は下の者を尊重すべしとあるが、目の前の兵士はそうだと信じきってしまっていて。
それはきっと兵士が正義感溢れ綺麗事を信じる程に真っ直ぐな性格の持ち主だからだろうとは思うが、正義と綺麗事だけでは世の中生き残っていけないのだ。
時に狡猾で非情さを持ち合わさなければ、生き残っていけない。
だから己は、確定していない事実を偽って確定しているだろうと信じることにしては嘘を吐いたのだから。
生き残る為、に。
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