髪を献上した将

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己の一部と化しているような嘘を平然と吐いて、部下に本心の一部を吐いて、怪我人が横たわる空間から出たカワードは、どこか重い足を動かし、城が悠然とたたずむ敷地内に設けられた兵士達の宿舎の中の一つである、己にあてがわれた一つのテントの中に入った。 肉厚のテントの布がばさりと外とを遮ると、僅かだけ差し込んだ陽の光は遮断されてしまい、薄暗い闇だけが熱気を纏って漂っている。 簡易な木の骨組みに何枚も布を広げたベッドに深く腰を下ろしたカワードは、忌々しそうに溜め息を一つ、吐いた。 「ちっとも落ちつかんな」 一つの任務をこなせば、次の任務が休む間もなく与えられる。 あれの首を落としその首を持ち帰ってくること。 それがカワードに与えられた任務で、首を落とせず首を持ち帰れなかったが、あれの髪の一房を男に献上したし、人間を食料か玩具と見なしている竜を目の前にして、深手を負った人間が生き残れるわけがない。 そして次に与えられたのが、あれの護衛をしている筈だった騎士を探し出し始末すること。 あれの側近くに常に控えており、あれの盾となり剣となりを忠誠を誓いその忠誠を貫く騎士の肩書を口にされていたその者。 カワードは何度かその騎士を目にしたことがあるが、あれのどこが騎士だと、そう怪訝に思ったのを記憶している。 「あれはどうも、人に仕えるような人種じゃなかったんだがな」 守るべき主をたて、盲目的に主の命を聞くようなたまには決して見えなかった。 あれは首輪も鎖も身に付けさせない獣だと、そう印象付けた。 決して人に従わず、信じるのは自分自身のみだと、そして害成す存在は慈悲の欠片一つ持ち合わせずに斬り裂く程の凶暴性を秘めた双眸をしていたのを思い出し、その双眸を脳裏に思い描くとカワードはまた溜め息を一つ吐く。
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