幸せを壊された姉

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「アニエス!! アーニエース!!」 「鬱陶しい人がこちらに向かっているようです。迎え撃ちましょうか?」 「ひいっ!! なんて物騒な発言!! 流血沙汰は御免ですよぉぉぉ……」 これが幸せでなければ何だというのだろうか。 音にされた言葉からは決して幸せを感じれる穏やかなものではないけれど、それでもアニエスにとっては日常茶飯事であり習慣のように繰り返されているやりとりの一部でもあるのだから、桜色の唇の合間から笑みを零すと、碧眼を綻ばせた。 建物の敷地内の一角に、日当たりが一番いい場所に、アニエスは様々は花の種を植えては懸命に世話をして種を成長させて花を咲き誇らせた。 赤、青、黄、白、紫、橙。 様々な色の花が咲き誇り咲き乱れる小さな花畑はアニエスの憩いの場であり、昼を過ぎた時間帯アニエスがよく過ごす場所でもある。 それを知っているから遠くからアニエスを呼ぶ声は徐々に近付いてきて、アニエスの後ろに控えていた身形のいい一重の騎士は、本当に騎士かと疑いたくなるような舌打ちを一つして。 花畑の中に背を伸ばしている木の幹に背中を預けていた眼鏡を掛けた体の細い男は、騎士の舌打ちを聞き取ってしまったらしく、ひいっと小さく短く悲鳴をあげた。 「アーニエス!! やっと見つけましたぞー!! ほうれ政務を終えてきたのだから、褒めておくれ褒めておくれ!!」 「ご苦労様です。お父様」 「ああ……至福の時……」 まるで大型犬だと、アニエスはいつも思う。 花畑に面した建物中から己を呼ぶ声は聞こえていて、その声が直ぐそこまでと近づいた時、声の主は建物から花畑に通じるドアから現れたのではなく、窓の縁に足をかけてそこから外にと下りてきたのだ。 そしてアニエスを見た途端……いや、アニエスを見る前から緩めていた顔を更に緩めると、花畑の中に腰を下ろしているアニエスの直ぐ側に腰を下ろしてきた。
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