幸せを壊された姉

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重ねた年齢を教える皺を顔に刻んではいるが、しかし年よりもきっと若く見える精悍な顔つきに、黄色を基調とした生地のいい服越しからでも分かる屈強な体つきに。 短く刈り込んだ髪は銀で、綻ばされた双眸は翡翠色。 アニエスにお父様と呼ばれたその男の尻には、大型犬が千切れんばかりに振る尾の幻覚を見せてくる。 「政務お疲れ様です。しかしながらまだまだ成すべき事は全て終わってないのですから、さっさと執務室にお戻りください。早急に」 「なんだいなんだい。アニエスを一人占めしたいからって嫉妬は見苦しいですのー。男は余裕を持ってどーんを構えとかねばならんぞ。はっはっはー」 「政務には判を押す手だけがあればいいのですから、口は削ぎ落としてよろしいでしょうか? アニエス様?」 「物騒!! 物騒だって!! 僕の前で流血沙汰はよしてくれぇぇぇ……」 一瞬で賑やかになったと、アニエスは小さく笑う。 先程まで父である男は花畑のあるこの場所にいなかったのに、父が一人混ざるだけで騒々しいの範疇に踏み込みそうな程の賑やかさが生まれる。 それは決して不愉快な賑やかさではなく、アニエスにとっては幸せだと、そう感じれる楽しい賑やかさ。 己の身を守ってくれる盾となり敵を撃退する剣となる騎士は父を鬱陶しく思っており、静かな口調で物騒な発言をしては。 体が弱く血を見るのが何よりも苦手は体の細い眼鏡の男は、今にも泡を口から噴き出して失神しそうな程に顔を青ざめさせている。
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