幸せを壊された姉

5/22
前へ
/317ページ
次へ
「そしてアルアの分も」 「僕にも? ありがとう……確かに癒されるなぁ」 ふわりと、まるで綿が風に舞い上がるかのようにふわりと立ち上がったアニエスは、木の幹にもたれ掛っている眼鏡を掛けた体の細い男……アニエスの弟であるアルアの薄い金髪の上にも、花冠を一つ、そっと置いた。 ユダの発言に物騒さを感じてはいつ流血沙汰になるのだと心臓を縮めていたアルアだったけれど、色とりどりの花冠に癒しを貰ったらしく、心からの安堵の息を吐く。 「残りの二つは母様とお前のあの子の分かな?」 「違うの。母様と旦那の。あの子は……嫌がるだろうから、作ろうか迷ってたの」 「それなら作ってあげればいいですぞ。アニエスが作ったものを受け取らんあの子ではないだろうしな」 「そうだよ。あれは可愛いものとは全くもって無縁だけど、アニエスがあげる物は密かに大事にしてるんだからさ。僕それ見て笑ったら、何て言ってきたと思う? 次笑ったらその喉笛掻っ切るぞ、って言われたんだからね!! 物騒だったんだからぁぁぁ……」 それは恐い。 元々蒼白な顔を益々蒼白にして自身の体を腕で抱いたアルアは、体をぶるりと震わせて言うものだから、その時のアルアの恐怖が伝わってき、アニエスは小さく笑った。 父と弟とアニエスが言う“あの子”は、普通なら女の子が好む可愛い系を愛でたりしないし、そういった類の物を身に付けたり飾ったりもしない。 でも弟が言うには、アニエスが贈った物だけは大事にしていてくれているようで、アニエスは嬉しさから可憐な笑みを浮かべては、座っていた位置に戻って花を摘んだ。 大事にしてくれているというのなら、花冠をもう一つ、作ってみようかな。
/317ページ

最初のコメントを投稿しよう!

381人が本棚に入れています
本棚に追加