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「やはりここにいた」
呆れた声が、聞こえてきた。
振り返れば、アニエスとアルアの髪によく似た色合いの金の髪を垂らし、アニエスとアルアと同じ色の碧眼をした美しい女が一人、腕を組んで花畑の入口に立っているじゃないか。
騎士であるユダは誰よりも先に女の存在に気付いていたらしく、女に向かって恭しく頭を下げている。
「貴方。賓客を持て成すのも王の務めの一つだと、どうして分からないのかしら? 遠路遥々足を運んでくれた方々の中にその国の王はいなくとも、訪れた方々は王の顔とも呼べるのですよ? それを持て成さなければ、その国の王を持て成せないと、捉えられても致し方ない」
「持て成すのは儂には向いておらんぞ!!」
「この方は……」
女はアニエスの隣に一緒になって花冠を作っているアニエスの父の姿を確認するなり、つらつらと吐き出したのは父である男に対する叱りの言葉。
声には突き刺さらんばかりの棘が混じっており、碧眼が細められて表情も刺々しいというのに、言葉と視線を一身に浴びた男は委縮するどころが、開き直った。
豪華に笑いのけた姿にアニエスは苦笑を浮かべ、アルアは流血沙汰だけは勘弁と言いながら震えあがり、女は深い溜め息を吐く。
「では私が持て成しの全権を担います。それでよろしいですか?」
「全っ然!! よろしいですぞ!!」
少しもよろしくない。
静かに二人のやり取りを聞いていたユダは内心そう思うものの、男に忠言何て立場上出来るわけないし、男の性格上何かを言っても無駄だとよく知っている。
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