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天井から落ちてくる光を弾く癖の無い銀色の髪が何を示しているのか、この辺りに住む者に知らぬ者はいないだろう。
誇り高くも唯一無二の小さな存在の銀色を目にする度に夜空を彩る星の様だとぼんやりと思い、今もまたその思いを込み上げようとすれば、じっと見上げてくる翡翠の双眸に急かされた。
「あれ」
数度目になる促しに、小さな指が指差す方に目をやっと向ければ、幾つも乱雑に並んだ高い本棚ではなく、窓際に何となく置かれただろう背の低い本棚がぽつりとあった。
早く望みの物を手に入れたいらしいその子は、かつりと石の床を踏み鳴らすと本棚の方へ足を向けて。
ああ、促すだけあるなと、気付いた。
本棚の背が他の本棚と低いとはいえ、その子からしたらどうしても高いのだ。
あれを取ってあれを、と指さす先にある本は低い本棚の一番上の列の隅に並んでいて、その子がどんなに背伸びをしても指先さえも届かぬ位置にそっと苦笑を溢しながら、望む本に手を伸ばした。
そして気付く、本への違和感。
そっと同じ列に並べてある本の背を見ても、本には当たり前についているものがちゃんとついているというのに、そこ子が望む本には当たり前のものが無いのだ。
本の題名、が。
何かいわくつきの本なのかと懸念を抱きながらも、伸ばした手の指先は本に触れてしまって、指先はそっと一冊の本を本の列から抜き取った。
そうして望むもの望む本をその子に渡せば、ありがとうと、抑揚の無い声だけども小さな笑顔を添えられて贈られたものだから、胸の奥がくすぐったい。
取ってもらったぶ厚い本を大事そうに胸に抱えたその子は、本を読む為に設置されたのであろう大きな机のまわりに並ぶ椅子の一つにちょこんと座ると、古い表紙を持った本を机の上に置いた。
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