鱗を撫でられる竜

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闇が深ければ深い程、自分という人間が如何に汚れているのかをまざまざと見せつけられる。人としての感情を捨てきれなかったとはいえ、人としての優しさを忘れていた時もあった。目の前で手を差し伸べることなく、救える命を見捨てることだってあった。 相手を見捨てる非情さを今だ持っているジーヌにとって、相手をよくも知らずに手を差し伸べるアガサは綺麗すぎて眩し過ぎて。目が眩むほどの白さに、怯えがじわりと滲み感じる。 シュトケルは紅の双眸を瞬かせながらジーヌの横顔を窺った。 実に、興味深かった。 人が異種族を恐れるのは自分と同じ見た目でない為、という理由があるからだと知識から知っていたが、同じ種族を恐れるのを目の辺りにした。ブルタルが言っていたことはこういうことだったのかと、微かに首を傾げながら思う。 「汚れを知らない綺麗さは、あたしには怖いわ」 一片の曇りの無い美しさ。それがジーヌは怖いという。 だけどと、シュトケルは思った。 「彼女は、汚いからこそ綺麗であろうとしているんじゃないのですか?」 シュトケルの目にはそう映っていた。 アガサは常に凛として在り続けようとしている。そして実際確かに凛としていて、どこまでも 馬鹿が付く程愚直な程真っ直ぐで、前を見据えている。 その姿は綺麗で眩しい。だがその姿の足元に広がっているのは、 「相手を殺す汚さをちゃんと背負ってますよ」 血溜まりだ。
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