第1章

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* 「ここに通うようになってから、身体の調子がいいんだ。 ありがとうな」 彼はベッドに横になりながら、普段は言わないお礼を私に言った。 「どうしたんですか?急に。 気持ち悪いんですけど」 お礼の理由を聞きたいから、わざと失礼な物言いをしてみる。 「いや、ほんとに調子良くて、おかげで仕事もうまくいきそうだからお礼が言いたかっただけだよ」 普段は軽い会話しかしない彼が言うお礼。 それはいつもと重みが違って、ドキッとした。 「仕事、なにしてるんですか?」 「しがない自営業だよ」 触れているのに、線を引かれた。 踏み込むな、と。 それでも、彼の「ありがとう」に その日の私は、どこかそわそわとしたまま彼の施術を終えた。
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