第1章

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彼の体は、私が今まで経験したことのない感触だった。 筋肉質だから、痩せているから、とかそういった類いの話しじゃない。 なにこれ? 布を介して触れているのに、吸いつくような感触。 肌が合うというのは、こういうことだろうか。 不思議な感触に私が驚いていると、彼は私に訊いてきた。 「君、サッカー好き?」 サッカー? 「いえ、ルールもよくわからないです。 サッカー、お好きなんですか?」 会話をするのも、私の仕事の一部だ。 経験上、患者さんが興味のある話をすると、気を許してくれて、施術も上手くいきやすい。 「いや、むしろ嫌い」 「そ、そうなんですか」 じゃあ、聞かないでよ。 会話はそこで途切れたが、私は無理に喋ろうとしない。 会話をガンガン振っていく人も中にはいるけど、私はそうしない。 私が患者さんだったら、そうしてほしいから。
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