第3章

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施術中、彼はずっと何か言いたげだったが、私は気付かないフリをして、淡々と手を動かし続けた。 年の差に、 住んでいる世界の差が積み重なる。 目の前にいる……。 触れているのに……。 なんなんだろう、この距離感は。 知れば知るほど遠のいていく。 「あの、さ……本当にありがとう」 「何急に? 私は自分の仕事をしているだけですよ」 「それでも、感謝してる。 君がいなかったら、俺はサッカーを続けることを諦めていたと思う」 「今日のヒーローが、なに大袈裟なこと言ってるんですか」 「本当なんだ。 ……俺は君に救われた。 君に会うまでの俺は、怪我がどうにもならなくて、本気で引退も考えていた。 もう、限界だった。 だけど、君のマッサージが俺の身体を変えたんだ。 どうして君のマッサージだと良くなるのか、どうして他の人じゃダメなのか、正直良くわからない。 でも、他の人じゃダメだった。 医者や、鍼や、いろんなものを試したよ。 その道の権威と言われれば海外まで行ったが、どうにもならなかった。 ……それが、偶然行った、君の手で変わったんだ」 嘘だ、とは思わないけど、 ……にわかには信じがたい。 だって、私は特別なことは何もしていない。 技術で言えば、もっとすごい人はいくらでもいるだろうし、スポーツ医学を学んでいるわけでもない。 どこの町にでもいる、普通の整体師だよ? 「始めは俺も信じられなかった。 でも、本当なんだ。 今日の試合だってそうだ。 君がいなかったら、出場すらできなかったはずだ」
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