第1章

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沈黙を破ったのは、彼。 「おばさんに行けって言われたから、断りきれなくて」 確かに押しの強そうな女性だったな、と姿を思い浮かべる。 「押しが強そうな方ですもんね」 「そうなんだよ。悪い人じゃないんだけどね」 ありがた迷惑ってやつね。 「……ねぇ、お姉さんはマッサージ上手な人?」 うわ……プロに向かって失礼な人。 普通聞かないでしょ? 「どうでしょう?  あんまり比較できるものではないですからね。  相性もありますし」 さすがに私は下手な方だとは言えない。 「相性ね……そういうのもあるのか」 そういう彼は、さっきまで私が触れていた肩の部分を自分の手で触れる。 もしかして、私の施術が気に入らない? 「違和感ありますか?」 「いや、ないよ。 続けて」 目尻が下がり、ヒゲで覆われた口元が、少し動いた気がした。
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