146人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
「お母さんはね、
イチゴウにはなれなかったの、
して下さい、
と思ったこともなかった。
私だけならそれでいいと。
幸せだったからいいと」
息子の視線を正面に受けて、
笑む母の瞳が、
潤む。
「ごめんなさい、
慎一郎君」
視線を外さず、
母は続ける。
「あなたをイチゴウの子供にできなくて、
お父様を本当のお父さんにしてあげられなくて。
ごめんなさい、
でも」
すうっと息を継いで、
母は断言した。
「私は、
お父様の家族からお父様を取り上げることが出来なかった。
慎一郎君をあきらめることも、
どちらも、
ふたつとも得たくて、
望んだ通りになったけれど、
慎一郎君に平凡な暮らしをさせてあげられなかったわ」
最初のコメントを投稿しよう!