-1- 慎一郎 十三歳

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「お母さんはね、 イチゴウにはなれなかったの、 して下さい、 と思ったこともなかった。 私だけならそれでいいと。 幸せだったからいいと」  息子の視線を正面に受けて、 笑む母の瞳が、 潤む。 「ごめんなさい、 慎一郎君」  視線を外さず、 母は続ける。 「あなたをイチゴウの子供にできなくて、 お父様を本当のお父さんにしてあげられなくて。 ごめんなさい、 でも」  すうっと息を継いで、 母は断言した。 「私は、 お父様の家族からお父様を取り上げることが出来なかった。 慎一郎君をあきらめることも、 どちらも、 ふたつとも得たくて、 望んだ通りになったけれど、 慎一郎君に平凡な暮らしをさせてあげられなかったわ」
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