-1- 慎一郎 十三歳

16/35
前へ
/35ページ
次へ
「どうしようかしらね」  ふたりは肩を抱きながら、 シャチ談義に花を咲かせた。  先ほどのシリアスな話は微塵もさせず。  自分は庶子とわかっただけで充分だったし、 母と息子の間では解決ついた問題だった。  何も変わりなく、 昨日と同じ日々を明日も暮らしていける。  母との生活は刺激的で穏やかで、 楽しいものだったから、 不満はなかったのだ。  母が病気で喪われるまでの間、 慎一郎は幸せだった。  後日談だが、 母はシャチを見に行く、 を本当に実行し、 息子の意見を尊重してひと夏をカナダで過ごした。 父も途中で合流し、 バイカラーのオルカを堪能し、 彼らの狩りに戦慄した。  これが母と親子三人過ごした、 最初で最後の海外での遠出となった。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

146人が本棚に入れています
本棚に追加