-1- 慎一郎 十三歳

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【3】 母  父との出会いはいつ、 どこで、 どのような場であったのか。  馴れ初めを子供に語れない家庭だった。  いくら聞いても、 こればかりは聞き出せず、 ふたりから「秘密」とはぐらかされたが、 子供だから興味がある。 父母どちらも「あっちが一方的に好きになった」と言い張った。 異口同音に、 ふたりとも「正しいことだったから」と断言した。 避けようのないことだったのだろう。  ただ、 これまたふたりとも、 父に妻子があったことを残念に思っていた。  ふたりの関係の結果産まれた自分としては、 両親の存在は否定できない。 しかしながら、 慎一郎の女性観に少なからぬ影響は与えた。 後年、 彼は後腐れのない恋をすることはあっても、 ステディな関係はまったく考えたことはない青年期を過ごした。
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