-1- 慎一郎 十三歳

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 男ふたりだったから、 語れなかったことも口に出せた。  十三の初夏に見つけた、 『美しい女』のことも。 「そうか」  と父は言った。 「気付いていた」  とも言った。 「茉莉花も、 気付いていただろう」 「そう?」 「多分」 「そうなんだ」  思えば、 息子が母に欲情する、 などと捉えられても仕方のないあの場面と見えたもの。 父は完全に切り分けて理解してくれたようだった。 トラウマになりかねない情交の一瞬を、 まったく別のものとして昇華させてしまった自分の感性は如何なものだろうと、 慎一郎も、 そこまでバカではないから、 時々不思議に思った。 確かに見えたのは別の女だったのだから、 そう信じるしかない。
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