-1- 慎一郎 十三歳 #2

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 母と海外へ出る機会の多さも手伝って、 民間機のパイロットになることを将来の目標としていた。 「慎一郎君が初飛行する時は、 私、 ファーストクラスで乗り込むわ」  よく母は言ったものだ。 「断るよ」  慎一郎はバッサリ。 「どうして? いいじゃないの、 家族枠で安くしてくれるんでしょ?」  ファーストクラスを選ぶ人間が値引きしろときた。 「操縦席へ入れろってうるさく言うのがわかっているのに、 いいよ、 って言うと思うの?」 「あら、 だめなの」 「だめ、 絶対」 「つまらないわ」  母は頬を膨らませる。 「父さんは別だけどね」 「不公平だわ!」  母はおかんむりだった。 父はふたりの様子を眺め、 嬉しそうに目を細める。 この人は、 息子と妻の会話を見聞きするのがとにかく好きだった。
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