-1- 慎一郎 十三歳 #2

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 心底嬉しそうな顔を見れたのが救いだった。  これが親孝行なのかな、 と思った。  母が好きだった。 父もだ。  ふたりが喜ぶなら、 夢は変わってもかまわない。  今は力を蓄える時だ。 逆らわず、 流されよう。  その日、 病院からの帰り道に羽田空港へ行った。 夜の羽田空港の送迎デッキに立ち、 次々と到着する国内外の航空機を眺める。  他国のエアラインに混じって、 誇らしく並ぶ日本の飛行機。  僕は、 君たちを操りたかった。  けれど――。  もういい。  エアラインのパイロットの夢を諦めたその日から、 慎一郎は父の生き様を体現できる男になるべく努めだした。  一人称が『僕』から『私』に変わったのもこの日を境にしてのことだった。
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