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心底嬉しそうな顔を見れたのが救いだった。
これが親孝行なのかな、
と思った。
母が好きだった。
父もだ。
ふたりが喜ぶなら、
夢は変わってもかまわない。
今は力を蓄える時だ。
逆らわず、
流されよう。
その日、
病院からの帰り道に羽田空港へ行った。
夜の羽田空港の送迎デッキに立ち、
次々と到着する国内外の航空機を眺める。
他国のエアラインに混じって、
誇らしく並ぶ日本の飛行機。
僕は、
君たちを操りたかった。
けれど――。
もういい。
エアラインのパイロットの夢を諦めたその日から、
慎一郎は父の生き様を体現できる男になるべく努めだした。
一人称が『僕』から『私』に変わったのもこの日を境にしてのことだった。
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