- 3 - 慎一郎 二十九歳

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 ぽたり、 と落ちた滴が、 秋良の頬に滴る。 「お兄ちゃん」  寝言まじりに秋良が言う。 「どうしたの、 お兄ちゃん」  すぐにむにゃむにゃと眠りの世界に入り、 自分がされようとした事などわかるはずもない彼女、 幼いながらに相手を気遣おうとしている。  小さい子ですらできることが、 僕には何故できない?  さらさらと、 指先を滑る細い髪を撫でながら、 慎一郎は思う。  自分がしようとした行為は、 決して許されることではない。 思っただけでも厭わしい。  自分は、 一生、 この子に負い目を感じるのだろう。  馬鹿なことをした、 と自嘲して。  自分は目的のためには手段を選ばない人種なのだと思い知れ、 慎一郎。 「許してくれ、 秋良」  秋雨と、 秋良の安らかな寝息、 そして、 自身の涙。  しばらくの間、 慎一郎を苦しめることになった出来事だった
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