- 3 - 慎一郎 二十九歳

13/15
44人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
 慎一郎がまんじりともしない夜を過ごし、 翌日を迎え、 さらに翌日、 もう一日、 と日を重ね、 淡々と重ねる日々を受けながら、 彼女は黙っていたのだろうか、 誰にも知られなかったのだろうか、 と、 おどおどすることもなくなっていき、 父の初七日を迎える。  今では訪ねる父もいなくなった高輪の生家にひとり、 線香を灯す。  両親は、 生前に夫婦位牌を用意していたので、 後で父の命日を記してもらおうと思う。 あの人達は、 この小さな木切れに収まるのを良しとはしないだろうけど。 今の僕には、 ふたりの支えが必要だから。    朝夕、 手を合わせ、 母の月命日に花を供え、 父母に、 そして秋良に詫びを言うのが習慣となった頃、 ひょっこり秋良が、 水流添道代、 つまり彼女の母と来訪した。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!