- 3 - 慎一郎 二十九歳 #2

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 偉い学者様、 とはよく言ったもの。  父の願いを、 自分の夢にすり替え、 咀嚼して目標に据えてから、 慎一郎は生き直した。 夢のままではいけない、 叶える、 などという甘いことではいけない。 なるのだ、 生き残りが難しいアカデミックな世界で、 自分の立ち位置をしっかりと作る。  必ず教員になれる保証のない大学生活は、 スタートした。  尾上の家とは相変わらずの没交渉。 同居しているわけではないので気楽だった。 法事の時には末席ながら呼ばれるだけましといったところか。  高校とは違い、 大学はいろんな人種がやってくる。 出会いも増える。  人と交わることを好んだ父母だから、 自分もそうありたい、 と願ったわけではなかったが、 不器用ながら人の輪づくりをし、 悪友と呼べる類は呼ぶという友、 仲間もできた。 普通に話せる友人も増えた。
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