- 3 - 慎一郎 二十九歳 #2

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 と言いおいて、 かごも置いて、 帰ってしまった。 「また明日ね」  バイバーイと手を振る秋良に手を振り返してしまう慎一郎、 己の手を見て我に返り、 明日のお断りをしようと追いかけた親子の、 手を繋いで歩く後ろ姿に既視感を覚えた。  あまり子供らしくなかった自分でも、 同じように母に手を引かれ、 鼻歌を歌いながら帰路についた夕べがあった。  幸せな時間。  懐かしくて、 つんと鼻の奥が痛くなる。  あの母子が持ってきた食事にも、 その家庭の幸せの記憶が詰まっているのだろう。  深く、 礼をして、 慎一郎はふたりを見送った。  その日のメニューは、 子供が喜びそうな総菜が並んでいた。 量だけは大人サイズで、 平らげるのに、 慎一郎は少し苦労した。  
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