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- 慎一郎 二十九歳 #3
兄の嘆きは、
どこかで見たことがある。
そう、
あれは――
「父さんそっくりだ」
慎一郎はぼそりと言う。
弾かれるように振り返る政は弟を睨みつける。
その目を真正面から受けて、
慎一郎は続けた。
「母が死んだ時も、
父さんは泣いて取り縋っていた。
泣き声が――そっくりだ、
兄さん」
返す言葉が出て来ず、
怒りの形相を浮かべる政。
「裕が、
言っていた」
激高すれすれだった兄を止めようとしたつもりはない。
息子の名に政は眉を顰めた。
「弟も、
妹も、
どちらもいらないと。
昨日」
裕との最後となった語らいを伝えられた兄はおそらく傷付く。
けれど、
今、
言わなくてはならない気がする。
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