- 慎一郎 二十九歳 #3

27/35
前へ
/35ページ
次へ
 利発そうな顔をした彼は、 岡部仁と名乗った。  迎え入れたダブ・コテージでは、 元々の住まいであるかのように振る舞い、 住人とも打ち解けた。  舌を巻いたのはその語学力で、 小学生低学年でありながら、 いや、 子供だからなのか、 完璧なキングス・イングリッシュをしゃべった。 年相応以上の会話力と語彙で、 会話だけ聞く限りではネイティブと遜色なかった。  落ち着いて見えたのには理由がある。  耳打ちされた話は全く明るいものではなかった。  英国へ語学留学していた仁の、 日本にいる母親が亡くなったという。  本来なら即日本へ帰国するところを、 英国お馴染みのストとぶつかってしまい、 空港等の交通機関が麻痺してしまった。 慎一郎の元へ寄越されたのも、 とうてい母親の葬儀には間に合いそうもないから気晴らしを、 と思った回りの大人達の配慮というのが真相だった。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

47人が本棚に入れています
本棚に追加