- 慎一郎 二十九歳 #3

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 イギリスでの生活についてならぺらぺらと会話が弾む仁も、 家族や親に話が及ぶと口が重くなる。 当然だろう。  成り行きに任せて、 詮索はせず聞くに徹していた慎一郎に、 ぽつりと仁は言った。 「トラクターにひかれて、 ぐしゃぐしゃになったから、 帰ってくるな、 って姉ちゃんが言ってた」  それは紹介者から聞いていた。  北海道で競争馬の牧場を経営しているという彼の実家で事故は起きた。 自宅の敷地内で起きた悲劇だった。  彼の言葉を額面通りに受け取りたくないが、 海外で普通に行われている遺体を修復するエンバーミングが必要なのでは、 と話を聞いて彼は思った。
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