- 慎一郎 二十九歳 #3

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「お前に見せたくないから、 母ちゃんがストを起こしたんだろう、 だってさ」  クスンと鼻を鳴らす仁。  ひろしの死に顔が頭に浮かぶ。  親の死を、 まだ我が事として受け止められないのだろう。 無理もない。  ぶらぶらと、 ソファーに座って足を揺らしていた仁は、 弾かれたように頭を巡らせ、 部屋から駆け出る。  あまりに突飛だったので、 慎一郎もつられて追いかけた先は、 シンプソン家の居間から流れるラジオの前だった。  シンプソン夫人に限らずここでは生活に音楽が溶け込んでいる。 特にクラシックを好んだシンプソン家は、 いつも何がしかの曲が流れていた。
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