- 慎一郎 二十九歳 #3

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 同時期に渡航した同郷人の中には早々に帰国した者もいた。 何人も見送った。 風土だけではなく、 様々な要因を理由に、 脱落していった。  慎一郎はといえば、 海外の水や空気は性に合うようで、 現地の生活に馴染んでいく。 留学中は一切帰国せず、 休暇中は一人で、 あるいは友人に誘われて英国中や欧州を旅して回った。 母と訪ねた経験が殊の外役立ち、 友人達に重宝がられたのは言うまでもない。  留学が終われば、 針の穴に象を通すような、 難しい日々が続く。 今は遊学を堪能してもいいのではないか。 肩を並べて歩く友人達とも、 これきりになるかも知れないのだから。 楽しもう。
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