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兄は息子を掻き抱いてさめざめと泣いた。
兄と、
甥の傍らに立ち、
慎一郎は言う。
「抱いてもいいだろうか」
肯定するでもなく、
政は息子を抱く手を緩めて姿を見せる。
顔や足に生々しい擦り傷と、
頭に巻かれた包帯に染みた赤い血が痛々しい裕は、
穏やかな顔をして目をつむっていた。
温かそうな身体、
でも血は通っていない。
ろう人形のような白い指。
ほのかに感じる温もりは、
政の体温が移ったから。
慎一郎は兄の肩ごと、
裕を抱きしめた。
兄はこんなに小さかったのか――
窓の外からは車の往来とサイレンの音、
窓を揺する風の音。
人の息吹の音がする。
けれど政親子と慎一郎がいる部屋だけは不思議と静寂に包まれていた。
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