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少し頬を赤らめ、
次の言葉を口にしようとした彼女に、
割って入るように賑やかな声が人の群と共に押し寄せて来た。
「慎一郎君、
お掃除、
はかどっている?」
この声は、
水流添道代だ。
「相変わらず大きいわね、
少し痩せた? いえ、
太ったのかしら」
こちらは義姉の加奈江。
姪の裕の手を引いている。
馴染みの顔の登場に、
慎一郎は内心でほっとする。
目の前の女性より、
こちらの女性の方が何倍もありがたい。
裕は小学校に上がったばかりで、
まだ人見知りがあり、
二年ぶりの叔父にはにかんだ笑みを見せ、
母の後ろに隠れている。
小声で「こんにちは」と挨拶をする彼女の特長は、
一にも二にもなく、
その姿格好にある。
市松人形が抜けて出てきたかのような、
切りそろえた黒髪に、
和装姿。
赤い鼻緒にこはぜの足袋が似合っている。
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