- 4 - 均衡 #2

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 慎一郎はロンドン時代のエピソードを聞かせた。 ほんの数日、 相手をした小学生の話、 少し悲しい物語を。 その後、 順当に上の学校へ進学した彼とひょんな事から再会した瞬間、 仁は人を指さして叫んだ、 「タンホイザー!」と。 以来、 彼は慎一郎をそう呼ぶこともあるのだという。 「まさか、 覚えているとは思わなかった」 「でも、 高校生でしょ。 慎一郎さんが何故彼らの講習を?」 「友人の高等部の教師から相談を受けた。 カリキュラムの枠を越えた質問をする生徒がいて、 対応に困っている、 と。 難しい問題にチャレンジする姿勢は素晴らしいけれど、 他の生徒の手前、 彼ばかり相手にし続けるのも難しいから、 と」
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