- 転換点 #4

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 足音を忍ばせ、 階段を昇り下りした彼女の手には、 クッキーが入っていたピンクの缶があった。 いかにも年代物、 ところどころに子供らしいシールが貼られ、 剥がれ、 色があせている。 「宝物入れだったんです。 あの、 子供の頃から使っているから、 あまりきれいじゃないですけど」  中に入っている、 継ぎのはいったおもちゃの指輪に、 彼は目を細める。 「まだ持っていたんだね」 「覚えていて、 くれたんですね」 「忘れるはずがない。 あんなに喜んでいたのに? 私が女性に初めて贈った『指輪』だからね」 「とても嬉しかった、 あの時」
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