- 転換点 #4

5/35
前へ
/35ページ
次へ
「壊れたと言っては大泣きされて、 弱ったよ。 そして……」  言って、 彼は絵本を手に取る。 「慎一郎さんに初めて会った時、 読んでもらった……」 「君の手元にあったんだね」 「……やっぱり」  秋良は名前が消えかけている箇所をなぞる。 「これは、 元は私の物だった」  彼女の後を追うように、 彼の指は名前の上を滑った。 「気付いていた?」 「ええ。 ……いいえ、 今日まで知りませんでした。 でも、 慎一郎さんが来る少し前に見返してみて気付いて」 「母の字だ」  懐かしそうに、 秋良が解読につとめていたところを指さす。 「私の育った家で彼女が亡くなるまで、 私は高遠を名乗っていた。 名前を書いたのは母、 きっと、 この本を君に手渡したのも彼女だ。 いつだったか、 君は言葉遣いの手本にしたい人がいる、 と言ったことがあったね」
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加