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- 転換点 #5
昨晩はほとんど寝ていない。
身体は正直で、
年齢を彼に訴えかける。
けれど、
どうしても今日は参りに行かなければならない気がした。
秋良の見合い話を聞いて、
彼女の元へ行かなければ、
と感じた感情に似た思いが、
彼を動かす。
境内を抜け、
本堂脇を通り、
奥にある忘れられたようにぽつりと立つ、
背に東京タワーを配した納骨堂。
その前に、
慎一郎が探していた彼はいた。
高く、
狭い、
手すりのない石段を危なげに下りてくる彼に慎一郎は手を差し出す。
つと顔を上げたその人と、
初めて正面から視線を交わした。
一瞬躊躇った相手は、
目を逸らさず慎一郎の手をしっかりと握る。
力は強い、
けれど、
かさついた老人の手だ。
一段一段、
ゆっくりと下りてくるその人と対峙する。
彼の年齢では背も高い方で、
腰もしっかりしているようだが、
降る年月は隠せない。
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