ー 茉莉花の日記 #3

33/34
前へ
/35ページ
次へ
「私、 何を見ていたんだろう、 あなたのこと。 少し前の秋良はここにはいなくて、 全然違う私になったみたいで」 「壊れた、 と兄に言われた。 もっと壊れて素の自分に戻れ、 と」 「そうかも」  境内の石畳に踵を取られ、 躓きかける彼女の腰を抱える、 手。  以前のふたりは、 縁側で茶を飲む老人のようだと揶揄されていた。 お互い、 近付くでもなく離れるでもなく、 そこにいるだけの存在。 自分も、 静かな時を共有できる関係だと思っていた。  いずれ、 そうなれる日が来るだろう、 でも、 今のふたりには早すぎる。 達観するには歴史が足りない。 穏やかな時間はもっと先でいい。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加