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死んだはいいが、幽体の俺には特にすることもなく、ただ周囲や足元に転がる自分の屍を眺めることしか出来なかった。
覗き込むと、真夜中の暗さでも分かるほど歪んだ表情で死んでいる。
首吊りはダメだ。もし来世でも自殺することになるのなら、首吊りだけは絶対に避けよう。自殺する前提で来世を考えるのもおかしな話だが。
ただでさえ目に付く場所でない上、真夜中だということもあり、人が通る気配はない。自分が発見されるのはまだ先のことになるだろう。
他の場所に移動してもよかったのだが、特に行くあてもない。もとより、この世に未練などないので成仏してしまいたかったのだが、残念ながら俺は成仏の仕方を知らなかった。
死ねば勝手に向こうの世界に移動できるものだと思っていたが、実際そう甘くはないらしい。そもそも浮いてすらおらず、地に足が付いたままだが、死後の世界というのは歩いて行ける場所にあるのだろうか。
「いや、待てよ……飛ぼうと思ったら、飛べるのか?」
おお、これはいい線を突いているのではないだろうか。飛ぼうとしないから飛べないだけで、実際は飛べるのかも知れない。
飛べれば天国に行ける。ならば試してみるしかない。
「おおおおお! 俺は鳥になる!!」
両手をばたばたと動かし、俺は全力で空を飛ぼうと羽ばたいた。
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