POLOGUE

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 数秒後、ある現象が始まった。男の首から床にかけてひと筋、赤い線が描かれた。血だ。血が流れ出ている。目隠しはされていないから、己の血が流れ出るのを見続けなければならない。目を瞑っても液体が流れる感触が彼を襲う。  止めなければ。男は自分の体を揺らして椅子を倒した。下に敷かれたカーペットに自分の首をすりつけようとしている。こんなことで血が止まるとは思えないのだが、死が迫っているこの状況、まともな判断など出来やしない。狂ったように首をすりつけようとする様を、怪人は手を叩いて楽しんでいる。  しばらくすると男の動きが収まってきた。体内から必要な量の血液がどんどん流れてしまい、意識が朦朧としている。こうなるともう楽しくない。怪人はタオルを外してやり、ボストンバッグを持って外に出て行った。 「ま、待て、待て……」  漸く声を出すことを許されたが、もう先はあまり長くないようだ。  正体不明の白い影に向けた「待て」。これが、彼の最期の言葉となった。
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