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先日、あの男から電話が着た。同窓会の事件をいとも簡単に解決した、幡ヶ谷康介からだ。
彼は推理小説マニアで、自分でも様々な事件を解決したいと思っている。だが、小説のように一般人が警察の捜査に協力することは出来ない。そこで彼が考えたのがこの方法。俺に現場や凶器等事件に関係ありそうな写真を撮らせ、さらに関係者の証言を録音させるのだ。録音させるのは、貴重な証言に警察の先入観が入ってしまわないようにするためだそうだ。なるほど、確かに俺ならやりかねない。
しかしこれは重大な規則違反だ。簡単にあの男の言いなりになってはならない。初めの内はヤツの言うことは聞かなかった。すると、予想通りヤツから催促の電話やメールが来た。ニュースで事件を見知ったのだ。
『何をしている? 早く僕のところに来い』
吸血鬼が巻き起こす怪事件。ミステリーマニアの彼にとってこれほど魅力的な事件はまたとない。だが、俺はヤツの要求を退けた。
「何度も言ってるだろ? 一般人を捜査に巻き込めないんだよ」
『そんなことを言っていて良いのか? 犯人を無駄に泳がせて、また新たな犠牲者が出るかもしれないんだぞ?』
時に幡ヶ谷はこうやって俺を脅して来た。しかし、これよりも品の悪い脅しを俺は何度も耳にしている。軽くあしらって無視し続けた。
その結果、幡ヶ谷の言った通りになってしまった。事件は更に深刻化し、第2、第3の被害者が出てしまったのだ。
2件目が起きた頃も、俺は意地でもヤツの誘いには乗らなかった。しかし3件目が起きた時には、いよいよ俺達の方法では対処しきれないと気づいた。警察をあざ笑うように犯行を重ねる犯人。そして警察の捜査を批判するメディア。このままでは、俺達はまともに捜査が出来なくなる。
ちょうどそのとき、幡ヶ谷からまた電話がきた。
『そろそろ動くべきではないのか?』
「しかし……」
『相手は非常識な存在だ。非常識な相手には非常識で対応するのも、得策なのではないかな?』
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